犬の心臓・運命の卵
ミハイル・ブルガーコフ 新潮文庫(2015)
もう慣れてしまったし。ぼくはブルジョワの犬で、インテリなんだ。いい生活を味わってしまったんだ。自由なんてなんだっていうのさ。煙のような実態のない幻、虚構だよ。不幸な民主主義者たちの病的な幻想さ……
(犬の心臓 89p)
きみはポラリス
三浦しをん 新潮社(2007)
「俺だって本当はわかってる。すぐにだれかを好きになるのは、だれのことも好きじゃないってことだ。時々、こわくなるよ。俺、ずっと一人のままなのかなあって」
(永遠に完成しない二通の手紙 18p)
私はそのときつきあっている相手を、友人に会わせるのを好まない。
グランドキャニオンに流れ星を見せたところで、なんの意味があるだろうか。両者は私のなかで決してまじわることのない存在だし、それにもし万が一、私の眼前で流れ星が気を変えてグランドキャニオンに落下することを選んだりしたら、大惨事になる。
私は、流れ星を一人で眺めているのが好きだ。通りすぎて消えていくまで。
(夜にあふれるもの 104p)
地下室の手記
・ぼくは意地悪どころか、結局、何物にもなれなかった---意地悪にも、お人好しにも、卑劣漢にも、正直者にも、英雄にも、虫けらにも。かくていま、ぼくは自分の片隅にひきこもって、残された人生を生きながら、およそ愚にもつかないひねくれた気休めに、わずかに刺激を見出している、---賢い人間が本気で何者かになることなどできはしない、何かになれるのは馬鹿だけだ、などと。(8-9p)
・いったい自意識をもった人間が、いくらかでも自分を尊敬するなんて、できることだろうか?(25p)
・世界が破滅するのと、このぼくが茶を飲めなくなるのと、どっちを取るかって?聞かしてやろうか、世界なんか破滅したって、ぼくがいつも茶を飲めれば、それでいいのさ。(192p)
・今日彼女の足に接吻したそのことを根にもって、あすにも彼女を憎みだすことが、はたしてないといえるだろうか?はたしてぼくが彼女に幸福を与えられるのだろうか?(202p)